<写真展『抱きしめなくていい』に寄せて>

2009年、最初の展示作品群に
「抱きしめなくていい」
というタイトルをつけました。

こんなにも静かにフラットな気持ちで
景色や瞬間に出会うことができる今を、幸せに思います。

昔は、過ぎていくことがとても痛くて切なかった。

楽しいほど、素晴らしいほど、大事に想えば想うほど
離したくなくて、見送りたくなくて、
ぎゅうぎゅうと抱きしめては苦しくなるような日々でした。

だけど、過ぎていくことはいつもこんなにもうつくしく、
とどめたくてもとどめられないものばかりです。

大切なものを、ただ大切に。
信じているものを、疑わない。

そんなふうに過ぎていったものたちは
もうわたし自身の一部になっているから
失うことさえできません。

だから
「抱きしめなくていい」、
そう思うようになりました。

大阪、東京での旅を終えて帰ってくる頃にはまた、
しっかりとわたしの中に息づく何かに変わってゆくのだと思います。

2009年 春を迎える前に 
栗原 葉子